Untold FRONTLINE [大津司郎サイト]

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2009ソマリア取材報告 [4]

翌朝、寝苦しい朝を迎え、うとうとしているとBに起こされた。戦闘が始まったから見に来いという。リビングルームに行くと近くで断続的に銃撃音が聞こえた。まだ7時を過ぎたばかりだったのでみな腰にタオルを巻いたままの格好だ。オレは小さな格子窓の外に向けカメラを構えた。近くには滑走路が見える。その時、いきなり叩くような激しい砲撃音が連続して響いた。Bが「モーター、モーター(迫撃弾)」だと言って飛行場の方を指差した、その時尾翼を青く塗りつぶした一機の飛行機がちょうど離陸しようとしていた。

「大統領機」だと昨夜から泊まりに来ていた政府関係者のOが説明してくれた、と同時に「煙だ、煙が上がっていると」指差した。迫撃砲の着弾直後に上がったのだ。

この日ウガンダのアフリカ会議に行く大統領(機)をアルシャバブが迫撃砲で狙ったのだ。

オレは「アルシャバブが大統領機を狙ったんだね」と確認した。

「そうさ、奴らはここの支配者はオレタチだというメッセージを撃ち込んだのさ」と説明してくれた。

大統領の乗った飛行機は間一髪のところで被弾を避け離陸した。それから数分の時が経過しただろうか、今度はおそらく右手の方からさらに大きな砲撃音が連続して響いた。迫撃砲よりは軽いが、金属で空気を切るような凄みのある乾いた砲声が連続して炸裂した。アフリカ連合軍による報復ミサイル砲撃だ。

一列7発、それが3段に重なった計21発のミサイルが次々に速射されてゆく。もちろん発射地点は撮影できないが音はしっかりとビデオカメラに撮ることができた。
偶然というべきか今目の前でアルシャバブと暫定政府を守るAMISOM(アフリカ連合軍)との間で戦闘(砲撃戦)が展開されていた。迫撃砲も、また報復のミサイル攻撃もどちらも関係のない多数の市民を巻き込み、犠牲にする。慣れているとはいえソマリア人たちの顔も曇っていた。単に曇っているというだけではない、彼らは無差別砲撃による無差別殺人に怒っていた。友人のAは「これは戦争犯罪だ、虐殺だ、奴らはみな国際法廷で裁かれなければならない!」と、静に怒りをぶちまけてた。

寝起きの短パン、ビーチサンダル姿でカメラを回しながら一見平静を装っていたオレはしかし胸から腹にかけて何か得体の知れない熱いものが詰まっているのを感じていた。おそらく緊張と何らかの恐怖が自然身体に反応していたのかもしれない。

ラジオが直ぐに速報を開始した。みな息を殺して聞いている。ソマリア語でわからないが、明らかにアナウンサーの声も張り詰めていた。

『モガディシュの飛行場地区に迫撃弾が着弾している』

『連続攻撃が行われ、非常に危険な状況だ』

みな黙ってラジオ速報に聞き入っている。

『近くの村々にも着弾している』

『相当数の市民が犠牲になっている模様だが、その数はまだはっきりとしていない』

『近隣のすべての道路は封鎖され、救急隊も近づけず、死者あるいは負傷者たちは放置されたままだ』

友人のAが堪りかねた様子で話し始めた(イスラム過激派アルシャバブによる攻撃ももちろん許せないが、しかし同じソマリア人として、ウガンダ軍中心のアフリカ連合軍による同胞への無差別ミサイル攻撃もそれ以上に許せないという複雑な感情がある)

「こうしたこと(アフリカ連合軍の報復的ミサイル攻撃)のすべてはソマリア人の金で行われているんだ」(ソマリア人の金とは国際社会からのソマリア支援の金の多くがアフリカ連合軍へ回されているという意味)。

後でわかったことだが、CNNによればこの日の戦闘で約100人の死傷者(30人余が死亡、70人前後が負傷)が出たという。

AとM、そしてオレはこの日海賊取材のために別の場所へ移動する予定だった。だが目の前の戦闘、混乱を目の当たりにしてしばらくは動けなかった、しかし今日の便を逃せばもう1週間この危険極まりないモガディシュにいなければならなかった。だがそれは絶対に避けたかった。

朝飯を済ました後(重苦しい雰囲気だった)、昼過ぎ、オレタチはつい数時間前迫撃砲弾が撃ち込まれた飛行場に向った、こうしたことが日常的なのか、飛行場は意外なほど平静だった。飛行場にいるAMISOMの広報官(ウガンダ軍大佐)にオレは朝の戦闘とAMISOMによるミサイル反撃について聞いた。大佐はうまいことを言った。

「知っている通りモガディシュは波と潮の町さ、繰り返す潮の満ち干きのようにいろんなことが起きるものさ」

「でも私の見方では実に静かな日々のほうが多い、でもメディアはそうした静かなモガディシュについて報道しない」

「たった一発の銃声で大騒ぎをする」

「では今朝の撃ち合いはどうなんですか?」

「今朝のみたいなやつをメディアはヘビイ・ファイティング(激しい戦闘)という」

「しかし私に言わせればあれはヘビイ・ファイティングではない、スカーミッシュ(skirmish/小衝突)さ」

そう説明した大佐の顔は自信に満ちていた。

しかし、100人の死傷者が出た戦いをスカーミッシュ(小競り合い)とは到底納得できるものではない。病院に横たわる重度の怪我人たちの苦悶の表情を思えばなお更だ。
インタビューが終わった時、Mが嫌なニュースを持ってきた。この後、今度は首相が国外に出かけるという、すなわち、首相を狙って再びアルシャバブによる攻撃が予想されるのだ。

オレタチは是が非でもその前に飛ばなければならなかった。だが3時間、4時間・・・、待てども飛行機は来なかった。もう一度ホテルに戻らなければならないのかと覚悟を決めかけていたとき、Mが飛行機が来たと言いに来た。しかし定員オーバーで乗れるかどうかわからないという。

「何とかならないのか」

「今交渉をしているけど、難しい」

じっとしているわけにはいかない、オレタチは、飛行機が止まっている場所へ急いだ、すでに双発のプロペラが爆音を響かせていた。後部の乗り口のところには大勢集まってクルーのロシア人たちともめている。ヤバイなと思った。

友人の二人も必死だ。

その時Aがポケットから数枚の100ドル札を鷲づかみにしてロシア人に渡した。荷物室でいいならといってロシア人は直ぐにマニフェスト(搭乗者名簿)に名前を書くように紙をくれた(余談だがアフリカ紛争地の100$紙幣の威力、現場力は抜群だ)。3人の名前が書き終わるとオレタチは梯子を上り後部の荷物室に転がり込んだ。転がり込んだ途端に梯子が上げられ、ドアが閉められた。両翼のエンジン音がこの時ほど頼もしく聞こえたことはない。爆音の中汗が滴り落ちる。安堵したのか他人の荷物の上に身体を横たえたオレタチは思わず笑ってしまった。

Aは冷えたコークを手にしながら、

「今日は10月22日の木曜日、オレタチは今モガディシュを飛び立った。オレタチは今貨物室にいるヒューマン・カーゴ(人間貨物)≠セ。でもオレタチのエネルギーは全開だ、全然失望していない。オレタチはただゴールに向って走るだけだ!」

ぼろい飛行機の貨物室でカメラに向ってレポート≠した後、Aは美味そうにコークを飲み干した。

続いて側にいたMが、

「この後1時間後に今度は首相の飛行機が飛ぶ、その時再びアルシャバブが迫撃弾を撃ち込んでくる。だからオレタチはその前にモガディシュを飛ばなきゃならなかったんだ!」

青い横線の入ったロシア製の中古機は北へ向けソマリアの空へと飛び立った。そこには海賊村へと続く町がある。

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