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アフリカ・フロントラインから見えてきた日本
vol.1 (2)

【ジュバ/南スーダン】

この間(08年6月〜7月/09年3月の2回)中国の石油採掘、石油争奪の最前線ということで問題になっている南スーダンへ取材に行ってきた〈*スーダンの石油のほとんどは南スーダンに埋蔵されている、石油資源争奪をめぐる南北内戦は2005年の平和条約によって一応終結〉。自国の高い経済成長率維持とエネルギー消費量激増に危機感を抱いた中国は1996年以降スーダンの石油開発に対しすでに1兆円以上を直接投資してきた。さらに1400キロに及ぶパイプラインの建設をはじめ、採掘、精油に関する数々のプロジェクトを手がけ、最近ではダルフールにおいても相当な鉱区を確保した。(そのネガティブ・インパクトなどこの問題は後日また検討してみたい)。

今ここでお伝えしたいのは中国の石油採掘の話ではない。 二つのことを簡単に報告したい。

  1. 日本のODAと中国人ホテル経営
  2. 南部スーダンに派遣されている国連PKO部隊(UNMIS)

いずれもこの目で見てきた事実だ。 スーダン取材の一環でジュバのJICA事務所を訪ねた。現在職業訓練を中心に数人の日本人スタッフが頑張っていた。2005年以前は紛争地ということもあり、南部スーダンにJICAは存在しなかったが、トップが緒方貞子さんになったということもあり、ポスト紛争地でもようやく活動が始まった。職業訓練の内容は中々充実しているように見えた。スーダン人生徒も熱心だった。チームリーダーに、JICAの訓練の目的は何ですかと聞くと、即座に「人づくり」という答えが返ってきた。ただ訓練が終わった後の仕事のケアまでできない、していないのが実情で残念ですがと言っていた。当然きちんとその後の仕事の世話まですべきではないのか。

最近の南部スーダン取材ではジュバをベースにすることが多い。以前はテントロッジ(各国のビジネスマン他が来るため安くはない、100ドル〜200ドルする)に泊まっていたが、こないだ初めて中国人が経営する「ペキン・ジュバ・ホテル」に泊まった。先の日本のODAと好対照なので現状と気づいた点を報告しておく。

プレハブの平屋だが構えはでかく、レセプションも堂々としている。前庭には南スーダン政府(GOSS)の国旗と中国国旗が風にハタメイテいる。全体では200〜300人は泊まれる。1泊150ドル、飯はついてないので、食事と少し酒を飲むとチェックアウトの時には1泊200ドル近く払わされる。稼働率はほぼ75%というからかなりの利益だ。4人の中国人オーナーの共同出資、経営だ。他にレセプション担当など中国人スタッフは30人いる。

気がついたのは次の点だ。

ホテルは現地人を100人以上雇っている。掃除、ウエイター、メンテナンス、部屋係等々、給料は1ヶ月100ドル〜200ドルという。中国は、いろいろと"問題"はあるにせよとにもかくにも現地の雇用を創出している。「ペキン・ジュバ・ホテル」以外にも最近中国系ホテルが相次いでオープンしている。地元への経済的効果は計り知れない。

ひるがえって日本のODAだ。つまり「人づくり」はするけど雇用を生まない日本と、おそらく「人はつくらない」が仕事をもたらす中国、地元にとって今、どちらがインパクトがあるかそれはいうまでもない。インパクトだけではない、オープンに際して地元のGOSS(南スーダン自治政府/SPLAスーダン人観解放軍)との間で多くのケンカ(交渉)が繰り返され、金が動いたにちがいない。これはしかし大きな経験値である。

利益以外に彼らが異国の地で手にするもの、それは体験の積み重ね、教訓、そして知恵だ、そこからさらに新たなネットワークが生まれ、それは真の"インテリジェンス"となって民族(あるいはビジネス)の戦略的展開を可能にする。そうしたことをオフィシャル援助(税金)ではなくビジネス投資(身銭)という形でアフリカでやっているところが中国の凄さだ(ここではあえて「援助」と「ビジネス投資」という異なるジャンルを同一の脈絡で論じた)。民族性の違いと言ってしまえばそれまでだ、さらに、欠点を見つけて昨今流行の中国批判を繰り返すのも簡単だ。もちろんアフリカへの進出、事業展開に相当な問題と批判があるのも承知している。

しかしそれでもやっぱり、"身銭"を切って、"人生"を背中に背負ってアフリカくんだりまで出てゆく男たち、女たちにはかなわない。(比べるべくもないが80年代のパキスタン航空を思い出して欲しい)。文句があるなら、日本的見識と技術、即ち戦略性をもってそうした中国の上を行くべきではないか。日中の世界における戦い、とくにアフリカにおける戦いを軽く見てはいけない。

2006年、私は取材のためジュバ(南スーダンの中心)にあるUNMIS(国連スーダン派遣団/2005年1月の南北スーダン内戦の和平合意を受けて停戦監視等で派遣、規模約1万人)本部を訪ねた。多くのプレハブの建物は様々なセクションに分かれている。驚かされたのは参加国数の多さだ。中央アジアのキルギスタンから南米のウルグアイまで、まさかと思われる国まで多くの国々(70ヶ国近い)が来ていた。しかしそこに一人の日本の自衛隊員の姿も見えない。"いない"というのは、現実には、現場では非常に違和感を覚える。何故、"大国"日本の姿がそこにないのか。平和維持(国連PKO)、あるいは人道のため、"そこ"にいるというのはすでに世界の常識といっていい。存在しない、いないことによって日本が失っていることも少なくない(今年2008年になってハルツームに2名の自衛隊員が派遣された)。

部屋で私がタイから来た中尉(女性)と話していると、一人の男が入ってきた。軍服の胸には五星紅旗が縫い付けられていた。中国人民解放軍、T少佐だ。噂には聞いていたが南スーダンで実際目の前に現れるとかなりリアルだ。ビジネス同様、ここでもかれらは世界的展開を果たしていた。少佐は部屋に入るなり快活に様々な国の兵士たちと話しはじめた。

中国がアフリカ紛争地のPKOに参加する本当の狙いは何か

  1. 実践訓練の場とする(これはアメリカの地上戦闘能力を非常に意識している)
  2. 情報収集、交換、そしてその分析
  3. 他国のオフィサーたちとのネットワーク作り
  4. 万が一の時に、自分たちの投資(石油などの国家的投資と民間投資の二つがある、どちらも国益といえる)を守る。

中々きな臭いがしかし、これがアフリカ・フロントラインの現実だ。これを単に軍事的マニアの話として観るか、あるいはもう少し大きな視野で捉えるか、それは賢者の見識にお任せしよう。だがこうした風景、現実は日本にはほとんど届かない。とくに数字(視聴率)の上下にしか関心のないテレビ・メディアにそうした視点がないからだ。これはまた別の意味で大きな問題だ。"

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