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黒い鎮魂/ブラック・レクイエム 第31回

RPFもまた多くの人間の死を含むさらなるルワンダ国内の混乱を望んでいた、混乱が大きければ大きいほど自分たちにとっての権力奪取のチャンスが増えるからだ、同じツチ族同胞が殺されているのに、さらなる混乱=死を望んでいるというのはありえないと思う向きもあるが、しかし、RPFはツチ族ではあるが育った境遇、感情などルワンダにいるツチ族と同一とは言い難い。それはまた主に在ウガンダツチ族から成るRPFのルワンダ侵攻、内戦の真の目的とも関係してくる。RPFはツチ族同胞をフツ族による虐殺から救おうとしてやって来たのか、そうではなく、フツ族政権を打倒して権力奪取のためにやって来たのか。恐らく両方であろうが、後者の方が真実に近いのではないか。つまり決して正義の軍隊ではなかったということだ。

フツ族過激派犯行説の場合、合図、引き金と書いたが、かりにRPFが撃墜したとなるとそれ以上の意味、つまり、権力奪取への隠された直接的行動だということだ。大統領の撃墜死は想像以上の衝撃と混乱をもたらす。すでにフツ族によるツチ族の殺戮、混乱は始まっていたとはいえ、スピード、規模において”十分”ではなった(この辺りの認識はツチ、フツ強硬派においてはともに共通していた)。モット強烈なだめを押す必要があった。この時、CIAは50万のツチ族市民が殺されるという報告を出していた。ルワンダ、特にそのフツ族過激派が暴発寸前、であったことは誰の目にも明らかだった。後は熟した柿が落ちるようにもう一押しがあれば完璧――大混乱(大量殺戮)は必至だった。コントロールを失ったフツ族過激派がさらに整然と殺しを続ければ、逆にフツ族権力中枢、ルワンダ政府が混乱とパニックに陥ることもまた手に取るように読めた。撃墜というもう一押しによって、内戦の混乱に持ち込み権力奪取をさらに確実にする。ゴールは虐殺阻止ではない、内戦の完全勝利だ。RPFにとっての虐殺は酷な言い方だが、内戦の継続、勝利のための不可欠のカードだったといっていい。

では、犯行説の根拠、さらに”見えない力”との関係はどうなのか、RPFが撃墜犯だとしても、それだけではハビヤリマナは、別に見えない力によって殺されたということにはならない。鎖にも繋がれない。反ハビヤリマナ、ツチ族反政府武装勢力によって殺されただけである。問題はRPFの後ろだ、背後にいた黒幕とその戦略(これについてはすでに一部触れた)、そしてRPFとの関係だ。

【RPF犯行説】

一般的にRPF犯行説の根拠はだいたい以下の2つである(1)撃墜直後、UNAMIR所属の無線担当士官(トーゴ人アペド大尉)が、ルワンダ政府軍所属の無線傍受オペレーターから、RPFの通信が頻りに”target is hit”を繰り返していたという話を聞いた(2)アメリカ本国におけるルワンダ、ウガンダ兵に対する軍事訓練。撃墜の3ヶ月前の94年1月、ペンタゴンはRPFに対して軍事訓練を行っていた、同時期にカンサス州、フォート・リベンワースの基地では、RPF司令官のカガメがやはり講義と訓練を受けていた。さらにアリゾナ州フェニックスのルーク基地ではミサイルについての特別な訓練が施されていた。その他先も触れたようにRPFがあと一突きで熟柿(虐殺開始)が落ちることを情報収集、分析から知り尽くしていたことや、結局、最終的受益者はRPFだったこと、つまり、ルワンダという土地を奪還したという事実などがRPF犯行説の根拠と言える。これらは概して状況証拠的であるが、ところが、モット凄い証言が飛び出した。撃墜実行者自身が名乗り出たのだ。証言は断続的に世に出た。最初はルワンダ虐殺に加わったとされる容疑者を裁く、97年1月のルワンダ国際法廷(タンザニア、アルーシャ)において、3人の大統領撃墜秘密作戦部隊員を名乗る元RPF兵士の実行証言、次は、2001年3月、カナダ、ナショナル・ポスト紙の97年8月の国連レポートの引用、レポートには「情報提供者はルワンダ副大統領(当時)のカガメと、特定されていないがある外国政府がハビヤリマナ大統領の乗った飛行機攻撃の背後のいたと語った」と書かれていた。だがこの証言(レポート)は、現ルワンダ新政府の関与が明るみに出るや、ある段階で握りつぶされたという。さらに、最近(2005年)出版された「ルワンダ秘密史」という本の中で、著者の元RPF(ルワンダ愛国戦線)大佐、アブドル・ルジビザ氏は、撃墜は、現ルワンダ大統領ポール・カガメの命令であり、RPFのネットワーク・コマンドが作戦を遂行し、それによってルワンダ虐殺の引き金がひかれたのだと書いている。ルワンダ問題の専門家の多くもまた、大統領機撃墜、暗殺が直後の組織的大量殺戮の引き金になったことを一様に認めている。491ページという分厚い本の中の15ページが撃墜準備について割かれているが、カガメは暗殺計画会議の議長であり、最後の会議は3月31日だったとしている。最終目的は権力奪取である。警戒してか陸路での移動の少なくなったターゲット(ハビヤリマナ)に対して、空での決着をつけることを決定、ウガンダから、発射スピードの速いSA-16対空ミサイルを密かに持ち込む、ある報告によれば実際の攻撃(ミサイル発射)は二人の兵士によって行われたという。目標のファルコン・50までの到達時間はわずか3、4秒、機は火の玉となってあっという間に夜の闇に落ちていったという。著者のルジビザ氏は発射された時その場にいたという。これが事実としたらRPFの戦略はフツ族過激派の上を行っていたことになり、ルワンダ虐殺はフツ族過激派による単なる大量殺戮だけではなくなる。フツ族も80万というツチ族を殺し、民族浄化という目的を達したが、しかしRPFはそれ以上の何か――それが”ルワンダ事件”の本質であろうが――を達したことになる。フツ族にとっては殺しそのものが目的だったが、RPFにとっては虐殺は、彼らのより大きな戦略=何かのカードだったということになる。それはその後の展開がはっきりと語っている。ならばその”何か”とは何なのか、その後の展開の中で、RPFの「何か」と、次第に、RPFを使って、ハビヤリマナを亡き者にした「見えない力」との関係が見えてくる。描かれたそれはシナリオといっていいほどの流れ、展開だ。

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