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黒い鎮魂/ブラック・レクイエム 第7回

【Round-Table(円卓会議)】

6人の死の向こうには、百数十年に渡って織り上げられてきた膨大な過去、その過去が積み上げてきたさらに膨大な富と資産がある。その力によって人間から資源にいたるまで全てのアフリカは思いのままに切り取られてきた。とはいえ、すべてがヤマ(鉱山)の権益を手に入れるがために動くのではない。モチベーション(動機)というものは単独では動きがたい、そこにさらに大きな目的、あるいは自分たちの理想、ミッションが加わる時、さらにそれは強化される。もちろん理想が自分たちだけのためになった時、それは欲望へと転化するのだが。

講和条約によってなんとかボーア戦争に勝利したものの、余りにもその代償と犠牲は大きく、帝国としてのイギリスの国際社会における威信は地に堕ちた。その時、ローズはイギリス帝国とイギリスが市民戦争で失ったアメリカとの統一こそが、アングロサクソン民族、勢力復興の唯一、最高の道だと考えた。それが真の新世界秩序であり、アングロサクソンが統治する一つの政府の下で全ての戦いは止み、貿易が促進され、世界に平和が訪れるとした。別の言葉に置き換えれば新世界秩序といっても良い。イギリスによる南アフリカ連邦の建設はその第一歩だった。

1992年、アメリカのブッシュ大統領(シニア・ブッシュ)はイラクとの湾岸戦争に勝利し、ソマリアへ多国籍部隊を送る時、奇しくもこの新世界秩序という言葉を使った。ローズはしかしそれ(イギリスを中心としたアングロサクソンの復興=新世界秩序)は秘密結社という形で実現されると考えた。その実現に向けてセシル・ローズとアルフレッド・ミルナー卿によって《Round-Table(円卓会議)》が作られた。会議の存在はアングロサクソンによる世界支配という陰謀説の根拠の一つとなっている。存在と影響力に関して今も論争がある。経緯はキャロル・キグリイ(国際関係、歴史学/ジョージタウン大学)著、「Tragedy and Hope」に詳しい。

こうした秘密会議、陰謀を証拠がないとして否定する者も少なくないが、アフリカの資源を巡る終わりなき戦い、大量の死者、難民を見るにつけ、そうした原因を、何か目に見えない大きな力(陰謀)によるものだとすることは、しかし全面的に否定することもできないのではないか。それはアフリカにおける重大な事件等の個々の事例(この中に当然6人の死もまた含まれる)の背景を探るまでもなく、次の事実だけからでも十分ではないか、すなわち、「20世紀に入ってからの前半はイギリス、後半はアメリカによる過度なまでの世界の動きに関しての影響力」である。このことが何によって実現可能なのか、保障されているのかということだ。それはアングロサクソン・グリップ、あるいはネットワーク、ネクサス(nexus/結合)の存在を示すものではないのか・・・。それが見えない大きな力というものなのか。さらに、先に挙げた現在のアメリカの国家戦略を左右する力を持つCRF(Council on Foreign Relations)の存在を、Round Tableとの繋がりの中で見る者も少なくない。二つは中東の石油からアフリカの鉱物資源の獲得に至まで、アングロサクソンの世界支配という一本の太い糸でしっかりと結ばれている。

確かに6人の死は小さなものかもしれない、だが死という具体的事実を辿って行った時、そこにある一本の黒い鎖(繋がり)が見えてくるのもまた確かだ。

【黒いトライアングル】

鎖は殺害と追放の時系列では一本に見えるが、しかし、その関係性において複雑に絡み合っている。どの話から、誰の死から始めても必ず全員を繋ぎ、全ての死にそれはたどり着き、そしてまた繋がる。

全ては、コンゴ共和国初代首相、パトリス・ルムンバの死に始まる。ルムンバから始まった鎖は、やがてジョセフ・モブツ(モブツ・セセ・セコ)〈追放〉、ジュベナル・ハビヤリマナ〈撃墜〉、そしてロラン・カビラ〈暗殺〉という「トライアングル」を作りもつれ合う。このトライアングルこそが全体の話しの核だ。さらにそこからダイアモンド利権、反共産主義代理戦争を介してアンゴラのジョナス・サビンビ〈戦闘中射殺〉がモブツとそのトライアングルへ繋がる、スーダン南部出身のジョン・ガラン〈撃墜〉はこのトライアングル、別の表現を使えばグレイト・レイクス(アフリカ中部にある大湖地方、ナイル川源流域一帯を指す)の直接の住民ではなかった、がしかし彼もまたラド(南スーダン南西部地域)とコンゴとの関係、そして南部に眠る石油をはじめとした資源というファクターにおいてこのトライアングルと繋がってゆく。鎖に繋がれた6人の死、さらにその核心をなすトライアングルについて知れば、ほとんどアフリカで行われてきたダーティ・ゲームの全体と正体を見ることができる。

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