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黒い鎮魂/ブラック・レクイエム 第5回

【黒い鎖】

何故、鎖は黒いのか。「黒」は“暗殺”“追放”という事件の背後にある意図の暗さを象徴する、それを陰謀と言わないなら、意識的にせよそうでないにせよ、目に見えない陰の力といってもいい。「鎖」はその黒さ[暗殺・追放]が、ある共通した背景と理由、そして力によってあたかも一本の鎖となって繋がっているという意味だ。そうした意味で冒頭に挙げた6人は一本の黒い鎖で結ばれている。

見えない陰の力と、真に世界を支配する者たちとは関係があるのか、いやそれ以上にそれは同一の存在なのか。黒い一本の鎖に繋がれたアフリカの男たちの死が単なる偶発事故でないとするなら、それら(死)を必然たらしめている事件の共通の理由、背景とは何なのか。

世の中には陰謀説者と呼ばれる人たちがいる。彼らは世界を変えた大きな事件の背後には、ある陰謀が存在すると見る。最も新しい陰謀、それは、誰もが知る「9.11」だ、彼らの見方ではそれはアメリカの世界再支配を目指した自作自演だという。アフリカにもあるエイズ(AIDS)のアフリカ起源だ。かれらは、エイズが1945年に始まったアメリカの細菌戦争=人口コントロール・プログラムの武器として開発されてきたと主張する。アフリカは細菌戦争を想定した特殊部隊の実験の場だったというのだ。特殊なウイルスによって免疫不全を引き起こし、アフリカ黒人の爆発的人口増加力を抑えるのだという、その証拠もあるという。だがアメリカ自身その抑制に失敗した、それがエイズのアフリカにおける爆発的蔓延の理由だという。もちろんアメリカ当局は強く否定している。確かに、得体の知れない多くの他のウイルスもまた、何故かそのほとんどがアフリカ起源にされている。

【ジェネシス】

2、3年前ある駅の構内にあるカフェで、カナダ人の英語教師のパオロに聞いてみた。
「オリジンとジェネシスはどう違うの?」
パオロは
「アー、オリジンはね、一つのものの始まり、ジェネシスはみんな、全てのものの起源、始まり、かな」

以来、オレの頭の中には、アフリカの戦い(紛争と内戦)のジェネシス(始まり)について思いを巡らせることが多くなった、何故なら、アフリカの紛争地域をずっと長い間仕事の一部、研究のテーマにしてきたからだ。例えばルワンダ虐殺は何故起きたのか(しかしこの設問自体おかしい、ルワンダ虐殺は起きたのではない、誰が、何故起こしたのかと設問すべきである)、スーダンの戦いの本当のワケ(理由)は何なのかなどなど。オレはどこかで陰謀説を気に掛けつつも、しかしそれ以上に、事実が織り成す、単なる因果関係以上の背後関係、事件の目的性、共通性などについて自分なりに注目してきた。それは、何故、アフリカのあるリーダーたちは殺されなければならなかったのか、という単純なクエスションに置き換えてもいい。何故6人は葬り去られなければならなかったのか、とくにその関連性、継続性に着目したものはほとんどいない。黒い鎖に繋がれた6人の死の向こうにはいったい何が隠されているのか。それにはアフリカのジェネシス=全ての始まりについてある程度知っておく必要がある。スペースと能力の都合上余りに遠すぎる過去にまで遡ることはここではできない。ここでは、それ――すべての始まりを奴隷貿易、奴隷労働で蓄えた富を基礎に産業革命を起こし、欧米諸国がアフリカ中のあらゆる資源を収奪し、蓄積し終えた19世紀後半のアフリカ争奪(Scramble for Africa)から、その後の植民地支配とすることで十分だろう。もっともこの植民地支配システムが何故出現したのか、とくにアフリカの植民地化については、これまで学者の間で数多くの論争が引き起こされてきた。ある者はヨーロッパにおける急速な産業の発展がアフリカにあるあらゆる原材料(綿花、ゴム、パーム・オイル、ピーナッツ、金属材料等々)を必要としたからだと、ある者は、ヨーロッパが自らの産品のマーケットとしてアフリカを強く必要としていたからだと、またあるグループはヨーロッパ内部の、とくに英仏の主導権争いがアフリカ支配争いに重なってきたのだといい、さらに別の学者は、ヨーロッパに蓄積された余剰資本がアフリカにその捌け口を見出したからだと説明している。いずれの説明が正しいにせよ、現代のアフリカで起きた問題、事件を考える時、こうしたヨーロッパとアフリカの関係、背景だけでも知っておくの知らないよりはいいだろう。6人の死もまた、結果的に、こうした植民地支配が百数十年の間に作り出した複雑な利害関係の中から生まれたと言っても言い過ぎではないからだ。

カウンターに肘をつきビア・グラスを傾けながら、パオロは、「ジェネシスがどうかしたの?」と聞いた。オレはいや別になんでもない、と答えた。

■次週(5月21日)へ続く

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