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黒い鎮魂/ブラック・レクイエム 第1回

◆プロローグ

闇の奥から黒い鎖に繋がれた6人のアフリカの男たちの姿が浮かび上がってくる。皆すべて死者だ。単なる死者ではない。何者かの手によって葬り去られた男たちだ。

★パトリス・ルムンバ【コンゴ共和国初代首相】1961年1月17日/暗殺
★ジュベナル・ハビヤリマナ【ルワンダ大統領】1994年4月6日/撃墜
★ジョセフ・モブツ【コンゴ共和国初代大統領】1997年5月16日/追放
★ローラン・カビラ【コンゴ共和国大統領】2000年1月17日/暗殺
★ジョナス・サビンビ【アンゴラ全面解放独立運動リーダー】2002年/射殺
★ジョン・ガラン【SPLA、スーダン人民解放軍リーダー、スーダン南北統一政府第一副大統領】2005年7月31日/撃墜

どの男たちも激動のアフリカの大地と時間の中を駆け抜け、そして戦いに斃れた男たちだ。これは彼らへの鎮魂の書だ。

だが何故オレは彼らの死について書くのか、オレは長い間アフリカ問題を追いかけてきた名もないジャーナリストだ、しかもフリーだ、今の日本社会では吹けば飛ぶような存在といっていい。本当の意味での国際問題など存在しない日本にとってアフリカの問題などどうでもいいのが現実だ。したがってオレのやるべき仕事は多くはない、それはまたいろんな意味でオレの辛い立場を意味する。

直接の執筆動機は、オレがこのうちの二人――ジョナス・サビンビとジョン・ガランに直接逢っていること、さらにハビヤリマナの死とガランの死にある共通点を感じたからだ。同時に彼らの死ほど、逆説的に世界の最前線の出来事を表しているものはないからだ。ただ現在の脳天気日本はそうした事実にアクセスする術を知らない。

よく世界の真の支配者は誰なのかという?を耳にする時がある。エジプト、秦、ローマの王や皇帝といった過去の絶対的支配者たちは別として、では現代の本当の支配者は誰なのか、といった問いに答えるのは複雑化した世界、現代社会では簡単ではない、ある者は大統領、首相、彼らを支える優秀で揺るぎない官僚組織だという、またある者は世界の市場を席巻、支配するMNC(多国籍企業)だという、さらに別の人間は世界を陰で操る秘密組織、タトエバフリーメーソン、ビルダーズバーグ会議、秘密ではないがその影響力の大きさからスカル&ボーンズ(Skull & Bones)だともいう。何であるにせよただ一つだけハッキリとしていることがある、それは「アメリカを支配することが世界を支配することの第一歩である(WHO REALLY RUNS THE WORLD)」という事実だ。世界の支配という議論は全てこの枠の中に納まるといっていい。イスラムの挑戦(9.11事件)があったが、それすら反テロ・ワーというアメリカの戦略、支配の中に呑みこまれた。ついでだがアメリカ人でない者が世界の支配者になりたい時、それはアメリカと同盟すればいい、と説明されている。秘密組織の究極の決定、それは軍事行動の決断だ。軍事行動こそが自ら作り上げてきた利益を守る最高の手段、方法だと考えるからだ。国家も市場経済も全てそうした傘の下でこそ自由に翼を広げることができるのであり、軍事的決断と行動、すなわち自分たちの価値と利益を守るための戦争こそが最大の価値なのだとしている。これを超える決断はない。平和もまたこのパラダイムの中でのみ意味をなす。そうした意味で、ヨーロッパなど非アメリカ人以外にも窓が開かれているビルダーズバーグ会議に対して、アメリカ人以外メンバーになれないCFR(Council on Foreign Relations)こそが、真の秘密の世界の支配者であり、メンバーによる影響力は軍事、情報、金融、メディア、アメリカ発の世界的多国籍企業など全ての分野に及んでいるという。

冒頭に書かれた6人の男たちの死は一本の鎖で繋がっている。鎖で繋がれた男たちの表情はどこか虚ろでうつむき加減だ。
先端には鎖を持った一人の男の背中がおぼろげに見えている、だがそれが誰なのかはわからない。

第2回